2005-03-27 |    ( ´・∀・`)  あ  ほ  ま  っ  し  ぐ  ら     

2005-03-27

彼女の病名は白血病だった。
病室に入ると彼女は健康そのものの顔だった。彼女の好きな焼プリンを一緒に食べながら
笑い話をした。  
俺は先生に呼ばれた。「彼女ね、もしかしたら今年一杯持つかどうか分らない。」俺にそう言った。
彼女には両親や親族はいない。複雑な事情で小学2年生の時に施設に
預けられた。それから高校を卒業するまで施設で育った。俺もまた彼女と同じような人生を今ま
で送ってきた。出会った頃は二人で、家族のいない寂しさを慰め合いながら生きてきた。彼女と
出会ったのは大学のワンゲル部でだった。華奢だけど頑健な体の彼女は男の俺に負けずに
グイグイと岩を登ってくる、そんな元気な子だった。

彼女には俺しかいない。だから、先生は俺に言ったのだろう。もちろん彼女も自分の余命を知
らされていた。  
部屋に戻ってこれからの事を彼女と色々と話し合った。涙を流しながら。俺は家に帰って、訳が分らず壁に額を何度も打ち付けた。額が割れそこから血が流れる。鏡を見ると情けない自分が映る。
嫌になって、コップを叩きつけて鏡を割った。
   
次の日、会社を辞めた。彼女と限られた時間を過ごすために。彼女には、上司と喧嘩して勢い余って
辞めた、と話した。笑われた。その日、俺は先生の所に行き、背骨が折れるくらい頭を下げて彼女の
事をお願いしてきた。

春から夏へとなった。彼女の車いすを押して病院の庭を毎日散歩した。アイスを一緒に食べた。虫を
みつけ、虫のことを2時間延々と話す。「雲食べられたら美味しいだろうね」そんなどうでもいい会話を
俺は全部脳に焼き付けた。 
それから数日ご、彼女は逝った。最後、看取る人は俺しかいなかった。そっと、キスをすると目を開け
てくれた。「ごめんね・・・。ごめんね・・・。」何度も謝るだけだった。俺は彼女を抱き泣きながら話しをした。
どんな内容だったかは恥ずかしくて言えない。彼女は数分後、目をゆっくりと閉じていった。俺は彼女を
抱いたまま、頬と頬をくっつけたまま、今までの事を思い出した。顔がぐしゃぐしゃになる。「何、寝てるんだよ、
起きろよ、山に行くんだろう?なぁ?」一人そんなことをつぶやいてると先生が入ってきて、俺の肩に手を置いて
泣いた。 
 今月の12日、彼女の命日だ。彼女の墓に好きだった、日日草とマリーゴールドを植えて、焼プリンを置いてくる。
多分、俺が手を合わせてる間に焼プリンのカップは空っぽになってるはずだ。食欲旺盛だった・・・